自家焙煎珈琲店アステカ 永森裕良 電話 045-785-1491
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「カレーを出して、うまいと思ってもらえるかどうか。それだけが勝負です。店がどんなに苦労していたとしても、お客さんにとっては一杯六百円のカレーなんです。」
Q:どんな仕事ですか?
家庭代行業みたいなもんですね。家庭で朝昼晩食事をすればいいのに、外で食べなければいけなくなってきて、それを代行してあげてるというふうに考えてます。そのためには家庭より以上のものを突き詰めるわけだけど、日常的でなくちゃだめなんです。そういう意味じゃ超A級じゃなくて、親近感のわくB級の店がいい。

僕らの考える日常は、コーヒーとか紅茶とかドリンクから入って、カレーとかスパゲッティとか、家庭でもできるやつをいちおうメインにしてます。家庭が一番のライバルです。アステカで飲んだコーヒーは豆買って家でも飲めるのに、アステカで飲んだほうがおいしかった、なんでかな、という半歩先をねらってくのがいい関係かな、と。でも、だからこそ、うんと勉強しないとだめです。お客さんは自分の家で気分よく飲食してるじゃないですか。知らないのは店主だけなんです。

このカレーにしても、じつは一週間かかってます。寝かして味をなじませないとこの味は出ない。だけど、そんな事お客さんには言わないですよ。カレーを出して、うまいと思ってもらえるかどうか。それだけが勝負です。店がどんなに苦労していたとしても、お客さんにとっては一杯六百円のカレーなんです。
「今、僕は毎日対人間相手に仕事してるんです。物相手にやってるんじゃない。店をもったというのはお客さんとのキャッチボールですから。」
Q:この仕事についたのはなぜですか?
やっぱり実はあれなんですよね、店を出したかった。それまでインストラクターっていうか、この業界の先生みたいなことをやってきたわけです。だからファミレスとかそういったところの接客指導員とか、ソフトドリンクがわかんない、カフェラテっていうのはどうやるんですか、カプチーノどうやって作るの。こうこうですよ、と教えにいくわけです。

だけど、中南米で二年間コーヒーを勉強して来た自分とすると、どっかで自分の力を発揮しなきゃしょうがないな、というのを感じるわけですよ。自分の焼いたコーヒーがどういう評価を受けるのか試してみたい。どこでも先生と言われるのはいいかもしれない。でもいつまでもこのままでいいのかなと。やっぱり、末端の消費者と対等にやってみたいというのがありました。仕事っていってもただ食えればいいってもんではないですし、結局、人間のトータルになってしまうじゃないですか。お客さんにおもねるのか、自分の生きざまを持ってきてお客さんにすすめちゃうのかっていうね。それは決定的な違いです。

今、僕は毎日対人間相手に仕事してるんです。物相手にやってるんじゃない。店をもったというのはお客さんとのキャッチボールですから、むっとすれば、むっと返ってきちゃう。きつい言葉をかければきつい言葉がかえってくるのはあたり前。投げたボールがそのまま返ってくる。そのへんの人のちょっとかゆいところに手をこうさしのべてやるのが僕らの商売なんです。

人によってそれはまったく違う。物事の動作とか十人十色なんです。じつは一番おもしろいのは人間なんですよ。毎日違うわけで。たとえ同じ人だって表情が違ったり話題が違ったりするわけじゃないですか。ま、その人の顔に出くわさないと一日始まった気がしないとかさ。なんにも言わずに頼むもの全部決まっちゃってて、いらっしゃいませとありがとうございます、だけで済んでしまう人もいる。ほんとに人それぞれです。だから喫茶店がおもしろい。それさえできていれば僕はなんとかやっていけると思うんです。

Q:どうやればこの仕事につけますか?
まず、好きこそものの上手なれ。嫌いか好きかっていった時に、まず、嫌いじゃ話になんないですよ。味の鑑別士は嫌いなほうがいい場合がありますけどね。そのほうが正確な判断ができる。だけど、自分の作ったおいしいものをすすめるとなった時は、やっぱ好きじゃないとできないんだよ。

たとえば、中南米いって勉強して帰ってきたとしても僕と同じとは限らない。どうして中南米に行ったんですか?なんでコーヒーなんですか?そこのところが大事なんです。それによって、その人のコーヒーに新たな息を吹き込むことができる。

それから、なんのためにそのコーヒーを煎れるのか。自分が飲むためなのか?お客さんに出すものなのか?ってことです。ようは接客ですね。いらっしゃいませもいえないようじゃだめです。人間が好きじゃないと。コーヒーが好き、人間が好き、さらにコミュニケーションをとるのが好きでないと、この仕事はやっていけないです。

生豆の知識を勉強して、挽煎をおぼえて、それから粉砕っていってミルにかけて挽く。それからペーパードリップ、サイフォン。抽出の問題があるわけだけど、それからカップ。これもちゃんとしたものがいい。いろんなものがすべて必要で、なんでこれを使ってるのか、なんでそれが30ccなのか、なんでそれが60ccなのかってことを突き詰めてかなくちゃならない。タイミング、器、光り、照明。コーヒーを飲んでもらうのに必要なものを全部ためしてみて自分で決めるしかない。

そのへんを頑固に守っていくと、自分の嗜好性が出てくるから十人中二人がうまいと思ってくれればやっていける。あとの人はドトールコーヒーショップでいいんです。だけど、二人いればそこから口コミでお客さんが増えるって事はある。個性を売るなら世界に一件の店にしたほうが利口です。同じ機械じゃない、同じ豆じゃない、同じ人間がやるわけでもない。だからそんなに戦々恐々とする必要はないんです。同じ豆はやれっこないんですから。もう一店アステカという店を作ったところで、僕のように働く馬鹿はいないですよ。

それと料理はね、家庭の奥さんに「ちゃんとこのレシピどおりに作ったのに」とよく言われるんですが、プロとして言わせてもらうとそれは作ってないんです。自分でそう思ってるだけ。火力が違う、作ってる道具も違う、タイミングも違う。ケーキでもそうだけど、見ながら作ってたんじゃ時間がたっちゃうからだめなんだよ。泡が消えていってつぶれていっちゃう。だからおいしくならない。それはレシピの裏側にあるものが見えていないから。作って作ってくり返しているうちにだんだんとそのへんがわかってくるんです。つまり、料理の本見ながら料理はできない。ぜんぶ頭のなかに入ってなきゃだめですよ。

あと商売としてやっていく話ですが、ここに値段ありますね、でもなんでこの値段なのか意味わかんないじゃないですか。なんでもって?材料費か?味か?そりゃわかんないですよ。盛り付け、店のムード、量にもよるしさ。これが高いと思うか安いと思うか誰が決める?お客さんですよね。それが合えば、行列できちゃうし、店は満杯だし、今年いっぱいは予約でいっぱいなんて店になる(笑)。
「どういうものを出したのか、この音楽がよかったのか、それはわからない。でも、また来ますって言われると一番うれしいですね。」
Q:仕事でうれしいことは?
自分がこう、作り上げたものを評価された時。おいしいと言われた時、また来てくれた時。これが一番。どういうものを出したのか、この音楽がよかったのか、それはわからない。でも、また来ますって言われると一番うれしいですね。リピーターっていうか、どうもごちそうさまでした、じゃなくて、また来ます、という一言を添えられるととてもうれしいです。いままでやってきた十六年間をお客さんが認めてくれたからいままで営業をやってこれたんです。値段だけの問題じゃない、なんかがあるわけですよ。

まあ、カレーがあって、サンドイッチがあって、メキシコ料理があって、どうしてこういうふうにやってんの?(雑誌でとりあげられてる)カレーだけでいいじゃん、と思いますよね。ところが一日三回くるお客さんがあることを考えると、そういうお客さんを無視できない。朝はコーヒー飲んで、昼はランチ食べて、午後はケーキでもつまみながら、夜は一杯飲みながらカレーでも食うかっていうお客さんがいるわけです。メキシコ料理でも食べようとかね。

アステカ行けば時間つぶせるものが必ずあるっていわれたほうがいい。実際一日何度も来る人いるんですよ。客単価っていうのを考える事も大事だけど、一日三回くる人のことも考えないといけないんです。喫茶店には自分の時間と空間を作ることができるっていう要素があるんですね。ドトールで朝昼晩ていう人もいるし。そのへんは十人十色で、ドトール行くか、アステカ行くか、お客さん自身が選ぶわけじゃないですか。ちょっとゆっくりして話をして、がちゃがちゃしてるとこじゃなくて落ち着けるとこがいい。そのへんを評価されるとうれしいですね。

Q:仕事でつらいことは?
つらいことはやっぱお客さんが来てくれないことでしょうね。

繁盛した店の本はあるけど、なんでこの店は失敗したのかって本はないんです。大事なのはそこなんですよ。世の中が不景気だからだめだってそのことを従業員にいう経営者は最低ですね。じゃ、不景気だったらみんなつぶれちゃうのかって。今日雨降ったから、雪降ったからっていうけど、じゃあ新潟のほうはどうなっちゃうんだって。毎日雪が三メートルも積もっちゃって、北海道だったら吹雪いちゃうでしょう。

それは理由にならないです。雨でも来てもらえる店じゃなくちゃだめなんです。おそらく雨が降ったり雪が降ったりしたときに一番売り上げよくなるのはうちの店だと思うんです。そのためにこの場所を借りたんですから。京浜急行から濡れないで来れる、連絡も取りやすいから待合せに使ってもらえる。雨が降っても、雪が降っても、ここが一番いい。喫茶店の鉄則です。なおかつ駐車場がついていればいい。

とびっきりの成功はむずかしいかもしれないけど、失敗は少ないです。失敗しないための工夫なんです。そう思ったほうがいいです。どっちかといえば成功するための工夫じゃなくて、失敗しないための工夫。だからやっていける。ここはぱっと儲けようって場所じゃないんです。なんとかやれる場所なんです。
「考え方が反対になってるんですよ。自分主体になってる。自分のやりたい店をやって、お客さんが来たら、じゃあ作ってやるよって。」
Q:仕事でこころがけてることは?
あの、健康ですよね。十時開店で十時閉店ですよね。これをきっちりやり続けるためにはやっぱり健康ですよね。いちおう定休日はありますけど、一年間きしっと仕事ができないと意味をなさないですね。お客さんを笑顔で迎えられるかどうかですね。医者が病気でどうすんだって。医者が風邪ひいてんのに、なんで患者さんみられるの。冗談じゃない、病気しちゃいけないんです。そのくらいの管理は自分でやれと。

考え方が反対になってるんですよ。自分主体になってる。自分のやりたい店をやって、お客さんが来たら「じゃあ作ってやるよ」って。いらっしゃいませを言う前にそうなっちゃうんです。失礼です。許せないです。

あとは、くり返しになりますけど、アステカさん何をやりたいの、何が売りたいの、ていうのをお客さんとキャッチボールすることですね。料理のことは聞きますよ。若い子でもレジなんかでちょっと「どうだった」てね。気楽に声かける店がいいですよね。逆に「いかがでしたか」なんて聞いちゃうと、お客さんもううーんと悩んじゃうしね。どうですおいしかったですか、うんおいしかったよ、ぱっと一言で返す事ができるような、なんというか、こう、話しやすさ。あ、こんばんはーとか言った瞬間に親近感わくじゃないですか。

見ず知らずの男性が入ってきたら、自分のおじさんだと思えるかどうかですね。その時点でことばにあったか味が出るかどうか。これはできそうでできないんです。若い子が来たら、自分の娘の友だちだと思えばいい。びくびくしちゃだめなんですよ。勝手に親戚のあのおじちゃんに似てるじゃないかって思えばいいんです。こんちはー、と声をかけてしまえばいいんです。なんじゃこいつ、なれなれしいな、って思われてもいいんです。

それには、表情も大事だけど、ことばも逆にとられたらいけないんです。小さなくり返しがだんだんと憎しみにかわっていく。ささいな事なんです。言い方が少し違うだけで、伝わり方は違う。口は災いのもとだから、お客さまの立場に立って言葉を選ばないといけないですね。

あと笑顔は最大の武器です。無愛想な笑顔ってないんですよ。まずはスマイルです。中身は関係ないんです。バイトだろうが正社員だろうが関係ない。笑顔ができるかどうかです。相手の目を見て話すだなんてそのさらに先の先です。言葉はしどろもどろになるかもしれない。でもにこっとできるかどうかです。すごいですねえマクドナルドは(笑)。

それと、来店動機って僕らは言うんだけど、トイレに入りたいがために来るお客さんもいる、横浜高校の結果が知りたいと、スポーツ新聞読みたいからって入ってくるお客さんもいる。もちろんコーヒー飲みたいって人も、カレー食いたいって人も、てんで、ばらばらですよ。だからそういう責任も必要です。こういう人だけにターゲットをしぼってという時代じゃないな、て感じますね。これだけ世の中には種々雑多な情報がながれているのに、うちの店の来店動機はコーヒー飲むだけ、カレー食べるだけ、それだけで商売成り立つのかっていうのもありますしね。
「お客さんの息子さんから親戚までってことになるわけです。すごいんです。それくらいお客さんを大切にするってことに価値があるんです。」
Q:未来の予想は?
小売店として、これからの喫茶業はいいんじゃないですか。僕は飲食業に限ったこういう喫茶業っていうのは最高だと思ってますから。こだわりのあるものをやれば。やらないと駄目です。新聞広げて待ってればおやっさんくるだろう、みたいなのとか、マンガ本てきとうにおいとけばお客さん来るだろう、なんて時代じゃないってことです。ドリンクひとつの商品と、食べ物ひとつの商品をしっかり開発すれば長続きする。あとは時流に合わせて変えていけばいいだけですから。僕は有望だと思います。客数×客単価ってあるじゃないですか。でもうちは一日に同じ人が何度も来るわけですから、単に客数×客単価ですまないんです。もう十六年やってると、そのお客さんの息子さんから親戚までってことになるわけです。すごいんです。それくらいお客さんを大切にするってことに価値があるんです。

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