カフェジーニョ 店主 大崎邦男 49才
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「肉ってこういう味なんだな、コーヒーってこういう味なんだなってのをブラジルで自分で気がついたんですね。私はその味に始めて出会ってその味がすごくいいな、と。」
Q:どんな仕事ですか?
どんな仕事って、今やってる仕事ですか?うんとあれですブラジリアンバーベキューの飲食店です。はい、ま、それ以上のことはないんですけど、あとはブラジルコーヒーですか。ブラジルの豆だけしか使ってない。だから一種類しかおいてないわけです。それもフレンチロースト、いわゆる深煎りのコーヒーですね。ええ、自家培煎で、倍煎機も自分で作りました。

ふつうの日本の人はコーヒーの味を知らないんじゃないでしょうかね。私はブラジルに4年間行ってましたから、で、行ってた場所がコーヒー畑のど真ん中。いってみたら、なんじゃいこりゃと思って、コーヒー畑で働いてる家族がいる仕事の同僚にね、子供の頃からずっと嫌いだったからコーヒーの悪口をいったんですよ。そしたら「お前はコーヒーの味を知らないんだよ。一回うちに飲みに来い、飲ませてやるから」っていうんで、(コーヒーを飲みに)行ったらほんとうまかったですね。コーヒーっていうのはこんなにうまいんだってことを、はじめてその時わかりました。そのおかげでコーヒーに対する認識がころっと変わりましたね。

それから、このブラジリアンバーベキューの肉の方は、シュハスコっていうんですね、炭火焼きしたやつを。(ブラジルのシュハスコ専門レストラン)シュハスカーリヤへ行くと岩塩をすりこんで焼くだけなんですよ。肉は赤身主体で、あの、赤身と白身完全にわかれてるんです。その肉っていうのは実際生臭いんですよ。なんとなく生臭い。だからうちの肉もそういう肉使ってますんでなんとなく生臭いんです。ま、それほど感じないんですけどね。でも、それが肉本来の味なんですよ。私はその肉の味が好きなんです。肉ってこういう味なんだな、コーヒーってこういう味なんだなってのをブラジルで自分で気がついたんですね。私はその味に始めて出会ってその味がすごくいいな、と。
「こういう店をやりたいな、という人は、やっぱし、そこに夢をみたほうがいいと思いますね。これでぼろ儲けしようとは思ってないんです。」
Q:この仕事についたのはなぜですか?
そうですね、だからそういう状態の中で4年間いましたから、会社よりもブラジルのほうが好きになってしまって浮気したわけです。日本へ戻ってきて3年間で会社辞めまして、で、私技術屋なんで、こういう店を開きたいなと思ってたんだけど、すぐにやってもだめだろうと考えて、一回お客さん相手の仕事したほうがいいだろうということで、転職して営業マンになったんです。お客さんのところで馬鹿だちょんだと言われながら頭さげて、あの、そういう仕事を6年半ほどやって、それで2年半くらい前にそこの会社もやめてこの店をはじめたということです。

Q:どうやればこの仕事につけますか?
ああ、そういうことですか。どうやって(こういう店を)作れるかって?別に、基本的に私が始めたのはね、あの、少しは売れるかもしれない、という思いはあったんですけど、とりあえず食ってければいいな、と思ってはじめたんですよ。これでぼろ儲けしようとは思ってない。だからってわけじゃないんだけど、こういう店をやりたいな、という人は、やっぱし、そこに夢をみたほうがいいと思いますね。単純に金もうけだけどかではなくてね。これをやりたいって夢がないならわざわざ脱サラする価値はないと私は思いますね。
「これはけっこう楽しいですね、とかね、だから、おいしかったって言われるのもうれしいんだけれども、ここで食事して楽しかったと言われるのが私は一番うれしいですね。」
Q:仕事でつらいことは?
日本人の食事っておもしろくて、食事っていうのは食べることだと思ってるんですね。黙って食って終わっちゃうんです。それでうんともすんとも言わずに帰っちゃう。それね、食事じゃないんです。うん。食事をするというのは、基本的にコミュニケーションがあって、それを楽しむという精神的余裕がなきゃいけないんです。だからね、家族できたらね、親子の会話がそこになかったらね、私食事じゃないと思うんですね。だからときどきここに家族で来られるんですけど、子供さんがマンガ読んでるんです。最初から最後まで。だけどねお父さんお母さんいっさい文句言わない。よっぽど私が文句言おうかと思うんですけど。そういう食事っていうのはきっとつまんないですよ。

Q:仕事でうれしいことは?
うちの店気に入っていただいて最初はそうであってもね、二度目、三度目、四度目の時にはね、あのマンガを読むのはやめてですね、じつはお父さんわたし学校でこうだったのよ、っていってね、ここで会話してもらいながら落ち着いてもらうのが、私はそれを見るのが一番楽しいですね。食事っていうのはそういうものなんです。肉ってこういう味なんですね、あ、ブラジルスタイルで焼いたらこういう味で、これはけっこう楽しいですね、とかね、だから、おいしかったって言われるのもうれしいんだけれども、ここで食事して楽しかったと言われるのが私は一番うれしいですね。

なんでそういう感じをもったかと言いますとね、ブラジル人はそれをやるんですよ。だから、そこにねシュハスケイラ(炭火コンロ)ってあるでしょ、ブラジルの平均的な家庭にはこれがあってね、ブラジルはクリスチャンですから日曜は朝十時頃まで教会へいって、で、ミサを終了したら、家族全員集まってシュハスケイラを囲んで食事をはじめるんです。部屋の中?、いやテラスですね。部屋の中に置いたら煙りでもうもうになってしまいますから。そいでみんなで焼きながらそれで8時間くらいかけて食事をしてます。だから昼ごはんと夕ごはんと一緒。

で、われわれはそれをパーティーととらえるわけです。宴会を開いてなんでそんなめんどうなことやるんだろうって思うけど、その感覚自体がおかしいんです。彼らにしてみればそれはパーティーでもなんでもないんですよ。日常の食事なんです。ごく当たり前に素材を自分達でもってきて、それを調理してね、そいでこういう味付けで焼いてみる、次はこれでやってみる、ところであんときのあれはどうだった、あのせまいクラブへいった時にはどうだったこうだったとかね、実際あそこのやつは気に入らないんだけど、あんたどう思う、とかね。そこに会話があるんです。だから楽しむんですよ。

ブラジルっていうのは世界一の債務国だしね。でも気持ち的にいえばね、僕はすごく、なんていうかな、メンタリティーからいうとリッチな人たちがたくさんいるような気がする。彼らは楽しむことを知ってる。で、日本人は楽しむことを知らない。だから日本の人は休みになると必死になってどこか出かけるでしょう。で、帰ってきたらくたくたになって、明日から仕事だ、となってしまうんです。こういうことは体にもいいことないし、精神的にもね、よくないですよね。バブルの頃、高度成長期のころはそれで通用したのかもしれないけど、今は通用しない。あのね、お金は多少もってるかもしれないけど、あの、精神的に非常に貧乏になってます。

金はないならないなりの楽しみ方があるんですよ。ブラジルの人はね、それをわかってるように思うわけです。たとえばうちの店は百グラム四百円にセットしてるんですけど、ま、安いですよね。安いんだけど、それをちょっと食べながら、楽しいね、会話がはずむね、というようになると私は一番うれしいわけで、そういう店にしたいんだと。で、あそこの店行くとわいわいと楽しくやれるからまた来ようかな、と言ってもらえればね。だからもっと気持ちをリッチにしてうちの店で食事を楽しんでほしいんです。金に自分のメンタリティまで縛られてしまうと、これは自分自身の精神が、非常にプアーになるんですよ。
「食べるっていうことは非常にすさまじいことなんです。生き死にがそこにあるんです。食べ物をあほにするなと。食べ物をあほにする人がいたらほんと困るんです。」
Q:仕事でこころがけていることは?
お客さんに「楽しいです」と言っていただけるようなサービスをしたい。肉を焼くのも目一杯気をつけて、気を配って、あの、お客さまある程度来ていただければ顔おぼえますから、なんていうかな嗜好がわかるんですよ。その人に合わせて焼き方や肉の厚さを合わせます。きちっと焼きますよ。それを常にこころがけています。

わたしは脱サラで、調理師の免許も持たずにやってますけどね。料理ってなんですか?と問われたら森田さんどう答えますか。私が認識してる料理っていうのは食べれないものを食べれるようにするってことなんです。なま肉がここにどさっと置いてあると、これ食べれます?それを食べれるようにするんです。なんでそんなことをするのか。なま肉を食べればね、食中毒で死にますよ。でも、人は食べなかったら死んじゃうんです。料理をするということはそれくらい生きることに直結してるんです。

農業が人類最大の発明なんです。この農業があって、はじめて60億人もの人間が生きてるんです。食いもんが人間の命を支えてる。アメリカの国家歳入の60%ちかくが農業関連の収入だといわれてます。アメリカの一番の戦略は穀物戦略、肉戦略といわれてますけど、アメリカという国はそういうエッセンシャルなところをきちんとおさえてる。これは揺るぎのない戦略です。食べるものがあるってことは、生きるってことに直結してるとアメリカの権力者はよく知ってるんです。食べ物っていうのはそれくらい重要なものなんです。

で、そういう食べ物において、私はやっぱしね、料理というものもきちんと自分なりの解釈をしておいたほうがいいだろうなと。私の解釈は「食べれないものを食べれるようにするプロセスが料理である」と。うまくする、っていうのは二の次。私にしてみれば。生きてければいい。食べるっていうことは非常にすさまじいことなんです。生き死にがそこにあるんです。食べ物をあほにするなと。食べ物をあほにする人がいたらほんと困るんです。うちでもね、食事したお客さまが料理を残されたらお持ち帰りしてもらってますからね、基本的に。捨てないでください。食べるということを基本的に理解したらできないはずだと私は思うんです。
「こうだと思ってるこだわり方でやってるんですけど、そのためにお客さんが来なくなってきたら、わたしは店を閉めざるをえないな、と。あえて自分の姿勢を変えようとは思いません。」
Q:未来の予想は?
食事っていうのは楽しくなきゃいけない。酒っていうのも楽しくなきゃいけない。そこらへんが私のこだわりなんです。それがやっぱり守れないなら来ないでくれと。もう、5、6件やってますね。次は来なくていいと言ってます。だからそのためにお客さんは少なくなってると思います。そういうことっていうのは飲食店を経営していく人たちからみれば、非常に甘っちょろいなととられると思います。で、実際そうだと思います。経営するのが非常に苦しいから、だからこの先いつまで持つかわかりませんよ、と言ってるわけです。あの、私がなぜ脱サラをしてこの店を開いたかといえばね、私の基本的なコンセプト、食事に対するコンセプトはこういうことなんですよ、ということを伝えていきたいわけです。それを曲げるつもりはないですよ。それを曲げるということは、4年間のブラジル生活で私がみた夢を捨てるってことですし、だったらはじめからやる意味ないわけです。

だから、そういうことをやり始めた時点で店を閉めることを考えます。そのつもりでやってますから。自分がこうだと思ってるこだわり方でやってるんですけど、それが、そのためにお客さんが来なくなってきたら、わたしは店を閉めざるをえないな、と。あえて自分の姿勢を変えようとは思いません。

で、未来はね、こういう飲食店を考えた時にフェイストゥフェイス、うちにくるお客さんの顔は全部おぼえてしまう。その人に合わせてオーダーメードで肉を焼いてあげられると。ファミレスでできないことをこの店がやらないとこの店は生き残れないんです。同じサービスをやっちゃいけないんです。あの店行ったら俺の嗜好知ってて、どういう焼き方するか知ってて、あのソース好きだっていうの知っててちゃんと焼いてくれると。そしたら少しは行く気になるでしょ?まだまだそこまでいけてない。だからお客さん少ないんです。根強いファンがついてくれるまでなんとか切り抜けて、がんばりたいですね。

*2000年9月30日で一時閉店しました。再開日は未定です。

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